番外編: 次に来るマンガ大賞2020ノミネート作品 『オレが私になるまで』

2020年7月1日水曜日

番外

t f B! P L
次に来るマンガ大賞作品をチェックしていた中で面白かったので紹介。
オレが私になるまで 2 (MFC)
特に男性に読んでほしい作品。

性転換ものという作品を扱う為、苦手な人は注意していただきたい 。


TSものと言われるジャンルの系譜である。
だが、そこに収まっていないと感じる。大抵はエロやコメディに振られる事が多いジャンルで、逃げは全くなく真っ向勝負の人間ドラマ。
両方の性を知っている主人公を通して性の違いを描くのと同時に、加害と被害の視点両方を持った等身大の相互理解がテーマの様にも見える。


普通の少年だった主人公アキラはある日、突然女性に性転換する病気に掛かってしまう。精神は男のまま肉体はどんどん女性になっていく。
男に戻りたいという気持ちと、可愛くなることやおしゃれな服を着る事への喜びが共存していて、環境を受け入れていく葛藤と幸せが丁寧に描かれる。
こういうジャンルの定型としてよくある、『男に戻る事』がゴールになっておらず、病気に罹った時点で一生女性として生きていく事が1話で明示されている。

このモチーフの最も面白いポイントは、正解が存在していないこと。

病気自体は不治の病だが、将来的な性転換手術やジェンダーフリーの学校への転向など、周囲のサポートによって一応男として生きていく道は示されている。アキラ自身は女の子としてオシャレを楽しむ事を受け入れ始めているのに、母親だけはあくまで息子として扱ってくるという思いやりゆえのスレ違いもリアリティがある。
実際にこんな病気があったとして、一般的な正解はなく、それぞれのケースにおける本人の心が指し示す方向に従うことでしか解決できない。そういった想像の難しいマイノリティの視点が、一般的な男子を出発点として、自然な心情の移り変わりで描写されている。
この作品はむしろ男性にこそ読んでほしいと思う。今後、日々常識がアップデートされていくホットな分野であることは間違いない。


2巻まで出ているが、後半からは中学生になり、女性としての肉体の変化を向け入れ始め、ラブコメとしての様相も見え始めてくる。
普通のラブコメと少し違うキャラクターの対比が秀逸だ。

アキラの魅力は加害者の視点と被害者の視点を併せ持った痛みのわかる人間である事。男子だった頃、セクハラまがいのいたずらをして幼馴染から拒絶された経験がある。それは心の中のしこりとして残り続けている。
そんな経験からアキラ自身は人として成長していくが、相手の痛みが分からないまま成長してしまった方のアキラともいうべき男子生徒も登場する。
その他、周囲に受け入れられなかったアキラともいうべき、女性的な趣味や嗜好を持っているのにそれを上手く表現出来ない男子生徒も登場する。
視点の違いによる価値観の壁が対比によってわかりやすく配置されていて、その壁がアキラによって崩されていくのが見ていて楽しい。
未だアキラの恋愛の対象が男なのか女なのか本人の中でも定まりきっていないので、ラブコメの着地点としても先が読めない所も見所だ。


マンガとしての魅力で特筆すべきは作者の画力だ。正直画力が非常に高いとは言えない状態で連載がスタートしているが、物語のなかでアキラが女の子としてかわいくなっていくのと同時に、作者の画力もメキメキ上がっていく。絵柄の魅力とアキラの魅力はリンクしていて、それがこの作品にしかない無二の輝きをもたらしている。


コメディとしてのTSものはややマニアックで描写的にも人を選ぶ向きがあるが、この作品は少女漫画に抵抗がなければ比較的読みやすい部類に入るだろう。
時代の先を行っているテーマであり今後伸びる作品だと思っているのでおススメした次第だ。

オレが私になるまで 1 (MFC)

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