これが50年前の本とは信じがたい 〜知的生産の技術

2020年12月2日水曜日

読書

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知的生産の技術 (岩波新書)

知的生産技術の予言書だ。

最後のページで出現する「情報科」という単語がそれを物語っている。50年前の本である。

そして半世紀経ってもなお金言の宝庫である。


以前、行った国立民族学博物館の初代館長・梅棹忠夫氏の著書である。


本書はハウツー本の類ではない、と断りがある。

確かに形式としてはエッセイの類といってもいいかもしれない。自身の半生を振り返りながらの、勉強法についての試行錯誤の歴史である。


自身の日々の発見(各々は些細な事である)を書きためた発見の手帳と呼ばれる手帳や、カードを使った資料の整理法のついて、前半で詳しく述べられている。

今日で言えばカードによる整理法はevanoteのような思想を持ったプロファイリング法の様なものだ。バラバラに記入したTIPSにタグ付けして検索性を高める訳だ。それが企業用のコンピューターすら普及しきっていなかった1969年に書かれている訳だが、正に今日の情報化社会を見越しているかの様な思想が語られている。


現在あまりにも便利なwebサービスが上位互換として存在しているわけで、流石にカードや発見の手帳の詳細なやり方を見たところで、それを取り入れる必要はないのだが、知的生産の断片をどう書き溜め、素材化し、取り出しやすく整理するか、を試行錯誤してアップデートしていく考え方は本質的には変わらない。

時代が違っても何の齟齬もなく参考になるのだ。


後半では更に根本的な読み書きという行為自体にフォーカスが当たっている。

具体的には、

  • 読書法
  • 各デバイスについて
  • 記録(または日記)の書き方
  • 原稿の書き方
  • 文章の書き方
についてである。
このうちデバイスについてはペン→タイプライターへの変遷を解説しているため、あまり参考にならない。これはツールとしての形式を解説している原稿にしょうでも同様だ。だが、他のパートについては時代に寄らない本質的なノウハウに対する思索で、金言が満載である。

読書は食に例えられる事が多いという主張は非常に面白くて、
栄養学と食味評論はしっかり分かれているのに技術論と鑑賞論がごっちゃになっているというのはなるほど確かにそういう事は有りがちな気がする。
梅棹氏のオススメの読み方は明確だ。
一気に読む、気になる箇所に線を引く、読書後ノートにまとめる。
私は一気に読まず平読が多いが、気になる箇所をチェックして読了後まとめるというのは偶然やっている。チェックについては読書後売ったり借り物であることが多いため付箋で代用している。
彼がチェックする箇所に関して振り返る考察は興味深い。
「だいじなところ」と「おもしろいところ」だ。

だいじなところは、その名の通りその本の中でもポイントとなる箇所だ。これは著者の文脈で読書をするという事だ。
対して、おもしろいところとは本の著者の意思とは離れたところで個人的に面白いところ、発見があったところをチェックするのだそうだ。読者の文脈で線を引くのだ。言ってみれば本を出しにした読者の発見、読者の考えをまとめ開発していく為の手段ということになる。これは梅棹氏は生産的読書、もしくは創造的読書と名付けている。

日記の項目についても非常に勉強になる。

日記といえば文学的な書き言葉を想像するが、本来自分のために書く日記とは経験を記録する業務日誌の様なものであるはずだと書かれている。

文学ではなくビジネス書的な淡々とした事実の記録こそが自分のためになるというには納得だ。


文章の書き方も先見性がある。

自分の考え方をまとめる方法としてこざね法というカードを徐々に大きな塊でつなげていく方法が紹介されているがこれはつまりマインドマップだ。現代の物書きなら当たり前のようにツールとして使用しているが当時は個人としては知っていても方法論として周知されるような土壌がなかったのであろう。


気に入ったところをピックアップしてみたが、通底しているのは本質的な知的生産に集中する為の形式化である。ビジネス用語的に表現すると、素材化を効率的に収集していく為の習慣の仕組み化という事になるだろう。

そのフレームワークの実践を見るという意味で本書は全く古さを感じさせない。

古さを感じさせないという意味では、内容の本質とはズレるが、著者の日本語は異常に読みやすい。興味があれば是非読んで見て欲しい。

現代のブロガーが読んでも損はない内容だ。


知的生産の技術 (岩波新書)

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