蛇足を心配していたのが申し訳ないくらい、紛れもなく確かに続編だった。
「ラストオブアス」の続編が出ることに対して蛇足では?と心配していたのに似ている。
トラックに轢かれ死んだ引きこもりのタカシ。
母フミエの執筆により設定だけの異世界転生物語は最後まで語られ、平和になったタカシの異世界。その前日譚を病床の少女の為に物語る事になった妹チカ。前作からの語り部であった妹チカ自身にフォーカスが当たるお話になっている。
劇中劇が前日譚である事が効いていて、今作は現実世界の過去へのスポットが当たる構成になっている。
前作はタカシの死後のエピソードであり、今作はタカシの生前のエピソードという対比。劇中劇の構造がそのまま現実でのエピソードを暗喩しており綺麗だ。
母フミエから今回の物語の語り手である、チカの掘り下げのように見えて、実際には時が止まってしまったタカシの掘り下げにもなっていく所の作りが見事。
前作からテーマは変化したにも関わらず、タカシを軸とした新たな異世界の誕生により周囲の人間関係の変化を描いている。
前作「異世界誕生2006」でも叙述トリックによる引っ掛けが結末への加速感をうまく演出していたが、今作は予想していなかった所から殴られるのでまともに食らってしまった。
前作のあとがきによれば著者は始め、なろう小説や異世界転生物語を皮肉ったりアンチテーゼを提示する物語として書き始めたらしい。
だが、前作の結末がどうだったかといえば、テーマ性から言えば真逆のメッセージ性である。異世界を肯定するものだった。逃避の必要性や、それを楽しむ人間を否定しないもの。言ってみれば人間賛歌だ。
書いているうちにメッセージが変化することはもちろんあり得る事だろう。でも真逆と言うのは面白い。
そこにはジャンルに対する一種の“舐めた”態度があったのではないかと思う。
今作のあるどんでん返しで、自分も同様の“傲慢さ”があった事に気付かされた。
前作の“タカシの冒険”には重要な部分において違和感のある設定があった。だが、タカシの技術の低さは散々描写されていたため「まあそんなもんだろう」と流して特に気にしていなかったのだ。詰め切れずに妥協したのだろう、と。
今作のどんでん返しはそういった”異世界モノ“に対する見下しを的確に指摘されたようで爽快だった。
蛇足どころか前作の印象に深みを持たせる内容で素晴らしい続編だった。
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